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コラム 雑感

気概と執念の人

8月13日私の尊敬する元会社の先輩Tさんが亡くなられました。
楽しかった思い出があるだけに、もう会えないのだという喪失感が大きく
あの笑顔をもう二度と見られない悲しさを感じます。

良くゴルフも一緒にまわらせて頂きました。
普段は冗談や駄洒落の好きな方で、楽しいゴルフでした。
「市来君!そこ池やで!わかっとる?」
私が池に入れると、本当に嬉しそうに笑い、池に入れて悔しいはずの私も、思わず笑いを誘わせる、そんな人柄の方でした。

普段は楽しい方ですが、仕事は妥協の無い信念の人だったと思います。Tさんは生地部に所属し、私は製品部に定年までいましたので、仕事でご一緒する事は少なかったのですが、
話は良く伺いました。

その先輩Tさんが課長になりたての頃のエピソードです。

そのエピソードは私の友人で、今は良く一緒にゴルフをするYさんが登場します。

まだ20代半ばであったYは生地部で岐阜を担当していました。ミセス商品を一番良く売ると若い営業の中では注目されていました。しかし、彼が所属する課は儲かっていませんでした。ミセス素材を競争にさらされて安く売っていたからです。
儲からない課は潰されるか課長交代になります。
新しくやってきたT課長は従来のミセス素材でなく、少し若い新商品を企画し、皆に「この値で売って来てくれ」と販売させようとします。しかし、岐阜担当のYは岐阜のミセスの得意先しかありませんでしたので、「こんな商品は売れない」と文句を言います。新課長は「君だけは売らなくて良い!」と多少、感情的になります。
反抗していたYは、売らないで良いと言われて悔しかったのか、少し若い新商品を買ってくれる得意先を岐阜で必死に探します。
まもなく新商品を一番売ってくるのはYになりました。
新課長はYを褒め、実はと新商品の原価を教えます。それは従来とは比較にならないほどの高益率でした。
目から鱗のYは商売の極意を身に着けます。そして、自ら東京への販売を希望し、そのうち商品の企画に携わり、若いながら先輩に企画販売の指導をするようになります。驚くほど向上心の強いYは、いつの日か専務に、新課長は副社長になり、生地部の黄金時代を築きます。
T社の生地が独り勝ちと言われた所以は、こういった人達の「気概と執念」だったと思います。

儲からない集団を必ず儲ける集団にしてみせるという「気概と執念」のT新課長。それに触発されて、「お前は売らなくても良い」と言われ、意地でも売ってきてやるという反骨心旺盛なY青年の「気概と執念」。

私がいたT社時代の事を振り返りますと、「気概と執念」を持った人材が多くいたと思います。特に課長はほぼ全員、気概と執念を持った人材だったと思います。
持たざるを得なかったと言ったほうが正しいかもしれません。
時代が違いますので、当時の役員さんは大半が高卒の叩き上げ、大学卒もいましたが、
高卒の役員さんのほうが優秀であったように思います。
「経営は学歴でなく気概と執念」と言ったほうが良いかもしれません。
しかし、何故、T社に「気概と執念」を持った人材が多くいたのでしょう?

その理由の一つは「競争が人材を育てる」という経営者の信念だったと思います。

当時は名古屋本店と大阪支店を競争させ、意識的に同じ商品をやらせて競争させました。
大阪支店の中にも同じような課があり、課との競争をさせました。
営業は毎月、営業全員の販売目標と実績が全課に配布され
半期に一回、1番から200番まで順位を付けた販売実績表が全課に配布されます。
勿論、課の業績は毎月、全社に配布、名古屋の業績まで毎月きて刺激を受けていました。
業績が悪いと当然のように、何故悪いのかを説明し、
どうやって良くするのかを説明しなければなりません。

経営者は良い課の共通点、悪い課の共通点を上げて、課長を刺激します。
兎に角、会社に競争をあおる風土があり、いやおうなしに、
数字に対する執念を持たざるをえない雰囲気がありました。
その緊張感の中で頑張って、成長する営業もいますし、脱落する営業も出ます。
競争により社員が切磋琢磨し、「気概と執念」を持った人材が育つのも事実だと思います。

もう一つは課別独立採算制です。

この制度は課ですべてを完結するという考え方でした。
勿論、仕入れ、売上は課ごとに上げますが、経費は課の経費だけでなく、非営業の経費も各課に割り当てされます。
課が場所をどれだけ使っているかで場所代も割り当てされ、金利も割り当てされます。
課の実力が明確に業績に反映されるようにという課別独立採算制でした。
課長権限が大きくなりますが、責任も大きくなります。
課員の業績が悪いのも課長の責任ですし、経費や金利が増えるのも課長の責任です。
上手くいかないのは部長が悪いとか、課員が悪いとか言えない、自分が悪いのだという仕組みになっていました。
その制度の下で半期ごとの業績結果によりボーナスが支払われます。
業績により多い人もいれば、0(ゼロ)の人もいます。
当然、課長は売り上げを増やし、益率を上げ、経費を抑える方策を必死で実践することになります。
課長が必死になれば課員も必死になります。自ずと「気概と執念」の集団ができます。
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私は亡き先輩Tさんから気概と執念の大事さを教えて頂きました。有り難うございました!!

「市来君!そこ天国、そっちは地獄やで!わかっとる?」

「はい、分かっていますけど、もう少しあとで…..」

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