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雑感 コラム

事前準備 ( 1 )

仕事を成果あるものにするには事前準備が欠かせません。

私は若い頃、出来の悪い営業でした。課を転々とし、最後に、鬼課長と言われたカットソーをやっているH課長のもとに配属され、戦々恐々としていた時でした。自信喪失に陥っていた私に
「奈良の吉野にあるカットソーの工場へ研修で行ってこい!」と言われました。

朝から晩までアイロンがけをやったり、下請け周りをしたり、そこでしょっちゅう工場長が言うことは「段取り八分!」「そんな確認見本の返事では段取りが狂う!納期は保証できへん!」
わてらの縫製の仕事は段取り八分なんや!お前のとこの課長は工場がどういうものかわかっとらん!」という風にしょっちゅう「段取り八分」と怒鳴っていました。
段取りが終われば仕事の大半は終わったと言っても、同然ということです。
段取りとは事前準備ということです。段取りなしで仕事は始まらないのです。

営業が上手くいかなかった頃、良く先輩から「根回しが大事だ」と良く言われました。
得意先への根回し、仕入先への根回し、上司への根回し、他にも仕事を上手く進めるためには色々な所への根回しが必要です。
この「根回し」という言葉も、いかに「事前準備」が必要かということで生まれた言葉です。樹木の移植を成功させるには、その樹木の周囲を掘り、主な根以外の大部分の根を切って、切った所から毛根が生えてから、その木を移植すると上手くいくことから「根回し」ということばが生まれました。

昔のプロの職人はいかに事前準備が大事かを知っていましたから、そういう言葉が生まれたのです。
私達の仕事は営業だけでなく、すべての職種に、行き当たりばったりでいく仕事はない、と言い切って良いと思います。

企画の提案をするにも昨年なにが売れたか、売れなかったか、今秋冬の現状はどうか、だから次の夏物はどういう商品に要望が多くなっていくのかを予測出来てなければ、得意先との商談もピントの外れたものになってしまうのではないでしょうか?

お客さんとの商談では相手が何を欲しがっているかを読まなければなりません。
何に、不便を感じているか、当方に何を要望しているのかを話の中から察知し、絞り込んだ中から商談をする。相手が要望していない話を延々とされたら、お客さんはうんざりして、空気の読めない奴だとレッテルを貼られる。次回の商談はなかなか前に進みません。

相手が要望するものを予測していくには周到な準備なしで予測することは難しいと思います。

当時、営業の鏡と言われたY氏は読みのすごい人だったと、T元相談役に良く聞かされました。
お客さんが「欲しい商品が分からない」というと、「これとこれが貴方の欲しい商品のはずだ」と、お客さんは「なるほど!」と言って買っていき、その商品が良く売れる。そのお客さんは当然、Y氏のファンになり、次回からの商談は格段にスムーズになります。

何故そんなことになるのか、それはY氏が世間で売れている商品、これから売れるだろう商品、こういう売り場では売れるが、こういう値段では売れないと、必死で研究していたからだと思うのです。そのうえで、お客さんの販売ルートを考えて、適切なアドバイスをしていたのです。だから相手が欲しい商品を相手よりも良く分かるという信じられないことが起きるのです。事前の充分な準備により、お客さんよりお客さんのことが分かったのです。

なにげない発言で相手の逆鱗に触れる場合があります。

例えば、“商品のコピーは犯罪です”と新聞に公告まで掲載する会社とは知らず、「お宅の商品はすごい、買ってコピーしたら、他で良く売れます。」とお世辞のつもりで能天気なことを言ってしまったらどうでしょう?多分、その発言だけで取引停止なると思います。

相手がどういう会社かを良く知り、相手が魅力的だと感じる情報を伝え、欲しがるだろう商品を勧め、興味をそそる企画の提案をする。それが基本だと思います。

一生懸命相手のことを考えて、事前準備もし、絞り込んだ中から商談をしたが、上手くいかなかったら、その商談は早々に引きあげて、次につながる話題の提供、要望を聞いてくる。次につながる準備に取り掛かるのです。絞り込む勇気、知恵が企画に販売に生きてくるのであって、当方の企画商品を説明するだけならば御用聞きよりも劣ります。