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第3回 関税だけではない——「そもそも輸入できない」を防ぐ4つの関門

実践ガイド 全6回・第3回 / インドで生地を売る

関税だけではない——「そもそも輸入できない」を防ぐ4つの関門

— 品質管理令(QCO)・BIS認証・最低輸入価格・アゾ染料証明。日本の生地は何をクリアすれば通関できるのか —

インド規格局(BIS)・インド繊維省・インド商工省/DGFT(外国貿易政策2023 および各告示)・インド政府情報局(PIB)・インド消費者問題省「法定計量(包装商品)規則2011」・グジャラート高等裁判所関連報道(Fibre2Fashion)ほか各機関の公表資料をもとに編集。制度・告示番号・日付は公表資料に基づく確定情報、認証取得の期間・費用は「実務上の目安」として明示して区別している。

前回(第2回・上陸コストの作り方)で、日本出荷1,000円/mの生地がインドの買い手の手元で約815ルピー/mになることを1行ずつ計算しました。価格の見通しは立ちました。

しかし、価格が合っても荷物が港で止まることがあります。インドには「関税を払えば入る」という世界とは別に、「認証がないと、そもそも輸入が違法になる」という規制の層が存在します。ここを知らずに商談を進め、成約後に「認証取得に半年かかります」と伝えることになるのが最悪の展開です。

本稿では、日本の生地・素材メーカーが実際に直面する4つの関門を、根拠となる告示番号と日付つきで整理します。結論を先に言うと、4つのうち2つは日本のメーカーにとって「有利に働く」——ここが本稿でいちばんお伝えしたい点です。

一言でまとめると:一般のアパレル向け織物・編物にはBIS認証(標準マーク)は不要。さらに日本原産の繊維品はアゾ染料の事前船積証明が免除されている(外国貿易政策2023 附録2X)。つまり4つの関門のうち2つは、日本製生地には最初から開いている。実際に止まるのは、①技術繊維(ジオ・アグロ・メディカル・プロテクティブ)を扱う場合のQCO=BIS認証が必須で取得に半年以上と、②合成編物の最低輸入価格(US$3.5/kg)。ただし後者の水準は日本製の実勢価格の約1/9で、事実上引っかからない。

✏️ 編集後記
本稿は全6回シリーズ「インドで生地を売る」の第3回。第1回で買い手を、第2回で価格を確定させたうえで、「その荷物は法的に入るのか」という前提条件を扱う。規制の記事は「あれもこれも必要」と不安を煽る書き方になりがちだが、本稿は逆に「自社に関係のない規制を切り捨てる」ことを目的とした。関係のある規制だけに時間を使うためのフィルターとしてお読みいただきたい。なお第2回執筆後の2026年6月に、ポリエステル糸のQCOをめぐる司法判断が動いている。買い手側の原料事情に直結するため、⑧で最新の経緯を整理した。

この記事の内容

① 先に答え——4つの関門のうち、自社に効くのはどれか

② 関門1|QCO(品質管理令)とは何か——「基準を満たしていても、認証がないと違法」

③ 自社の商材はQCO対象か——現在有効な繊維系QCOの一覧

④ BIS認証(FMCS)の取り方と期間——商談が決まってからでは間に合わない

⑤ 関門2|最低輸入価格(MIP)——「安すぎると輸入できない」規制

⑥ 関門3|アゾ染料の事前船積証明——日本は免除国リストに入っている

⑦ 関門4|ラベリング・表示——反物のB2B取引と小売段階の違い

⑧ 買い手の足元も揺れている——ポリエステル・ビスコースQCO撤回と訴訟

⑨ 商談前チェックリスト——5問で自社のリスクを判定する

⑩ 留意点・前提条件

① 先に答え——4つの関門のうち、自社に効くのはどれか

— 「全部調べる」のではなく「関係ないものを消す」 —

インドの繊維品輸入にかかる非関税の規制は、大きく4種類に整理できます。4つすべてが自社に関係するわけではありません。まず表で自分の位置を確認してください。

関門何が起きるか対象になる商材一般アパレル生地
① QCO
(品質管理令)
標準マーク(ISIマーク)なしの輸入・販売・保管が違法になる技術繊維4分野(ジオ/アグロ/メディカル/プロテクティブ)、ジュート袋、HDPE・PP織布袋 ほか対象外
② 最低輸入価格
(MIP)
CIF単価が下限を下回ると「輸入制限品」扱いになる合成編物の一部コード(第60類)実質無害
③ アゾ染料
事前船積証明
証明書がないと通関で留置される免除国リスト(附録2X)以外を原産地とする繊維・繊維製品日本は免除
④ ラベリング
(表示義務)
小売包装で必要表示を欠くと法定計量法の違反になる小売向けの「包装商品」買い手側の義務

ここが重要:普通のアパレル向け織物・編物を売るなら、本当に確認が必要なのは②のMIPだけです(そしてそれもほぼ引っかかりません)。一方で、不織布のマスク材、防護服素材、農業用資材、土木用シート、産業用の高機能素材を扱う会社は①のQCOが直撃します。この違いを最初に判定してください。

🧵 「規制が厳しい国」という思い込みを外す

インドは近年QCOを急速に増やしており、「規制が厳しい国」という印象を持たれがちです。しかし一般的なアパレル向け生地は、いまのところQCOの対象外です。むしろアゾ染料検査では日本が免除国に指定されているため、中国など非免除国の売り手に比べて書類手続きの負担が一段軽い状態にあります。規制を「壁」ではなく「自社の相対的な立ち位置」として読むと、商談で使える材料になります。

出典:インド規格局(BIS)「Quality Control Orders on Textile Products」/インド繊維省「Quality Control Orders(技術繊維)」一覧/インド商工省DGFT「外国貿易政策2023」附録2X(Public Notice No.14/2023、2023年6月14日)/DGFT告示 No.05/2025-26(2025年4月23日)

② 関門1|QCO(品質管理令)とは何か

— 「品質は十分です」では通らない。必要なのは“紙” —

QCO(Quality Control Order=品質管理令)は、インド規格局法2016(BIS Act, 2016)に基づいて政府が発する命令です。特定の品目についてインド規格(IS)への適合を義務化し、標準マーク(ISIマーク)の表示を強制します。

ここで日本のメーカーが最も誤解しやすいのが、QCOは「品質の規制」ではなく「認証の規制」であるという点です。BISの説明は明確です。

🔎 BISによるQCOの効果の説明

QCOの施行日以降、対象品目については、標準マークなしに「製造・輸入・流通・販売・賃貸・保管・販売のための展示」を行うことはできないとされています。

つまり輸入だけでなく「在庫として持つこと」「展示会に並べること」まで禁止範囲に含まれます。日本の売り手にとっては、「サンプルを現地の展示会に出す」段階から関係するという意味になります。

⚠️ 「日本の規格に合格しているから大丈夫」は通用しない

QCO対象品目では、JISや欧米規格の試験成績書をいくら添付しても輸入は認められません。求められているのは「インド規格に適合していること」ではなく、「BISからライセンスを受け、標準マークを表示していること」です。実力があるかどうかではなく、手続きを終えているかどうかが問われます。ここを軽く見て「品質は問題ないので大丈夫でしょう」と進めると、成約後に出荷できない事態になります。

なお、QCOの適用は原産国を問いません。インド国内メーカーにも海外メーカーにも同じ義務がかかり、認証を取得した海外製品はインド製と同じISIマークを表示します(表示上の区別はありません)。

出典:インド規格局(BIS)「Quality Control Orders on Textile Products」(BIS公式サイト掲載)/インド規格局法2016(Bureau of Indian Standards Act, 2016)

③ 自社の商材はQCO対象か——現在有効な繊維系QCOの一覧

— 対象は「技術繊維」と「包装用織物」に集中している —

繊維省とBISが公表している範囲で、繊維関連のQCOは次のとおりです。自社商材が下の表に含まれるかどうか——これが最初の分岐点になります。

QCO主な対象根拠・施行
ジオテキスタイル
(土木用繊維)
19品目。ジオセル、舗装用ジオグリッド、ジュートジオテキスタイル、路床安定用・分離用テキスタイル、恒久的侵食防止用テキスタイル、塩化ビニル製ジオメンブレン等S.O. 1706(E)(2023年4月10日)/改正令(2023年5月24日)
施行:2024年1月1日(当初2023年10月7日を延期)
プロテクティブ
テキスタイル
(防護用繊維)
防護服・防護用資材に関するインド規格適合品目プロテクティブ・テキスタイル(品質管理)令2022/改正令2022(繊維省公表)
メディカル
テキスタイル
(医療用繊維)
生理用ナプキン、ベビー用紙おむつ、洗って使える生理用パッド、デンタルビブ等2023年9月27日通知/改正令2024(2024年2月23日)
施行:2024年10月1日(中小企業は2025年4月1日まで猶予、既存在庫の移行期間あり)
アグロ
テキスタイル
(農業用繊維)
農業用シート・ネット等に関するインド規格適合品目アグロ・テキスタイル(品質管理)令2023(2023年9月27日)/改正令2024
ジュート袋6品目。A綾・B綾ジュート袋、穀物用麻袋等ジュート袋(品質管理)令2022
施行:2022年6月6日
高密度ポリエチレン・
ポリプロピレン織布袋
4品目。穀物・砂糖・砂用の包装袋同令2020(化学・肥料省)
施行:2020年10月23日

ここが重要:この表に「アパレル向けの織物・編物」は登場しません。綿織物、合繊織物(第54類・第55類)、一般的なニット生地(第60類)、裏地、芯地、服地用の後加工品は、現時点でQCOの対象になっていません。つまり服地を売る会社は、BIS認証を取らずにインドへ輸出できます。

🧵 逆に言えば——「技術繊維で勝負する会社」は準備の順番が変わる

日本のメーカーの強みは、実は一般服地よりも高機能・産業用の領域にあることが多いです。ところがインド市場では、まさにその領域にQCOが集中しています。不織布のマスク・衛生材料、防護服素材、農業用ネット、土木用シート・ジオメンブレンは、BIS認証がないと展示すらできません。

これは「やめたほうがよい」という意味ではありません。認証がハードルになる分だけ、取得済みの供給者は限られるという意味でもあります。ただし準備の順番が逆になる——引き合いを取ってから認証を始めるのでは間に合いません。次の④で期間を確認してください。

出典:インド繊維省「Quality Control Orders」一覧(技術繊維:ジオ/アグロ/メディカル/プロテクティブ 各令および改正令)/インド政府情報局(PIB)「Ministry of Textiles extends implementation of Geo Textiles (Quality Control) Order, 2022 from January 1st, 2024」/インド規格局(BIS)「Quality Control Orders on Textile Products」/メディカル・テキスタイル(品質管理)令2023(2023年9月27日通知、2024年10月1日施行、中小企業向け猶予は2025年4月1日まで)

④ BIS認証(FMCS)の取り方と期間

— 海外メーカー向け制度。工場審査と現地代理人が必要になる —

QCO対象品目を扱う海外メーカーがISIマークを得る制度が、FMCS(Foreign Manufacturers Certification Scheme=海外製造者認証制度)です。日本の工場がインド向けに認証を取る場合、この枠組みを使います。

大きな流れは次のとおりです。

🔎 FMCSの主なステップ

1. 対象規格(IS番号)の特定:自社製品がどのインド規格に該当するかを確定させる。

2. インド国内代理人(AIR)の指名:インド国内に窓口となる代理人を置くことが求められる。

3. 申請・書類審査:工場の製造能力、品質管理体制、試験設備等の資料を提出する。

4. 工場審査:BISの審査官が日本の製造工場を実地で審査する。

5. 製品試験:BISが認定する試験所で製品試験を行う。

6. ライセンス付与・標準マーク使用開始:契約書および補償証書の締結を経て、ISIマークの表示が可能になる。

⚠️ 期間の目安は「6か月」——引き合いを取ってからでは遅い

実務解説の一般的な目安では、申請から取得まで通常6か月程度、工場側の準備状況や書類・試験サンプルの往復によっては6〜9か月とされます。書類の不備や照会が入ればさらに延びます。また初回ライセンスの有効期間は1年(以後更新)、手続き上1万米ドル規模の履行保証(撤退時は返還)が求められるのが一般的です。

これらの期間・金額は「実務上の目安」であり、確定した公表数値ではありません。品目・工場数・試験項目によって大きく変わるため、必ずBISおよび認証支援の専門機関に個別照会してください。本稿で押さえていただきたいのは金額ではなく、「商談が決まってから始めると、最短でも半年、買い手を待たせる」という時間軸です。

🧵 認証を待たずに市場を確かめる方法はある

QCO対象品目で認証未取得の場合、「まず認証、それから営業」という順番は資金的に重いのが実情です。実務では①非QCO品目(一般服地・非対象の産業資材)で先に取引関係と信用をつくる、②インド国内の生産パートナー経由で供給する、③輸出専用ルート(前払輸出認可・輸出加工目的の供給など、第2回④で扱った枠組み)を使う——といった順序で市場性を検証しながら、並行して認証を進める形が取られます。いずれの選択肢も適用条件は個別判断になるため、実行前にインド側の通関業者・専門家の確認が必要です。

出典:インド規格局(BIS)「Foreign Manufacturers Certification Scheme(FMCS)」の制度枠組み/India Briefing「A Guide to BIS Certification in India for Foreign Manufacturers」ほか実務解説(期間・費用・履行保証の数値は目安であり公的確定値ではない

⑤ 関門2|最低輸入価格(MIP)——「安すぎると輸入できない」規制

— 中国産の低価格編物を狙い撃ちした規制。日本製には届かない —

MIP(Minimum Import Price=最低輸入価格)は、CIF単価が一定額を下回る輸入を「制限品」に格下げする仕組みです。関税を上げるのではなく、安い荷物そのものを入れなくするという発想の規制です。

合成編物(第60類)に対する運用の経緯は次のとおりです。

告示内容
告示 No.33/2024-25合成編物13コードにMIPを課す(2024年12月31日まで)
2025年1月7日 告示13コードのMIP条件を2026年3月31日まで延長
告示 No.05/2025-26
(2025年4月23日)
対象を4コード(60019200/60053600/60053790/60053900)に絞り、MIPを1kgあたり3.5米ドルに設定。2026年3月31日まで。CIF単価が3.5米ドル/kg以上なら「自由(Free)」、下回れば「制限(Restricted)」
告示 No.46/2025-26
(2025年10月21日)
目付28〜48g/m²の軽量品をMIP条件から除外(薄地の裏地・スポーツ素材等に配慮した部分緩和)

免除される買い手:前払輸出認可(Advance Authorisation)保有者、輸出指向企業(EOU)、経済特区(SEZ)の各ユニットは、国内市場(DTA)で販売しない限りMIP条件の対象外です。第2回で「輸出縫製工場を狙え」と繰り返した理由が、ここでも効いてきます。

🧮 日本製生地はMIPに引っかかるのか——計算してみる

MIPは重量あたりの規制なので、mあたりの価格を換算する必要があります。第2回と同じ条件(目付200g/m²、1米ドル=159円)で計算します。

・MIP下限 3.5米ドル/kg × 0.2kg/m = 0.70米ドル/m(約111円/m)

・日本出荷1,000円/mの生地 = 6.29米ドル/m = 約31.4米ドル/kg

結論:日本製はMIP下限の約9倍。まったく届きません。MIPは1mあたり111円を下回る水準の編物、すなわち低価格輸入品を対象とした規制であり、日本の生地メーカーが心配する必要のある関門ではありません。

⚠️ 期限管理だけは必要——2026年3月31日で期限を迎えている

上記のMIP条件は2026年3月31日を期限として設定されており、本稿執筆時点(2026年8月)でDGFTの2026-27年度告示のなかに延長告示は確認できません。ただしこのMIPは2024年以降、期限到来のたびに延長・再導入・対象コードの変更が繰り返されてきた経緯があります。

したがって「いま失効しているから無関係」と決め込むのは危険です。安価な素材や副資材を扱う場合は、商談ごとに自社の8桁コードでDGFTの最新告示を確認する——これを習慣にしてください。

出典:インド商工省DGFT 告示 No.33/2024-25/2025年1月7日告示(MIP条件を2026年3月31日まで延長)/告示 No.05/2025-26(2025年4月23日、ITC(HS)2022 第60類 合成編物の輸入政策条件改正)/告示 No.46/2025-26(2025年10月21日、28〜48g/m²の除外)。換算は1米ドル=159円(2026年7月末時点の市場実勢値)による本稿の計算例。

⑥ 関門3|アゾ染料の事前船積証明——日本は免除国リストに入っている

— 中国産との「事務コスト差」が生まれる、地味だが実利のある論点 —

インドは、特定の芳香族アミンを生成するアゾ染料を含む繊維品の輸入を規制しています。非免除国を原産地とする繊維・繊維製品を輸入する場合、荷物には事前船積証明(PSC)の添付が必要です。

🔎 非免除国からの輸入に必要な手続き

原産国の国家認定機関に認定された繊維試験所が発行した事前船積証明を添付する

・証明内容は禁止対象のアゾ染料を含まないこと。基準値は30mg/kg

・試験はスタイルごと・色ごとに実施する必要がある

・証明がなければ通関で留置され、書類が整うまで国内に入らない

この「スタイルごと・色ごと」という点が実務上いちばん重い部分です。色数の多い服地で毎色試験を回すと、費用も日数も無視できません。

そして重要なのが免除国リストです。外国貿易政策2023の附録2Xは、Public Notice No.14/2023(2023年6月14日)によって更新され、次の国・地域を原産地とする繊維・繊維製品についてはアゾ染料試験を要しないとされています。

✅ アゾ染料試験の免除国・地域(附録2X)

欧州連合(EU)加盟国/セルビア/ポーランド/デンマーク/オーストラリア/カナダ/日本/韓国/英国

日本は免除国に含まれています。つまり日本原産の生地は、色ごとの試験・事前船積証明の取得が不要です。この告示は旧 Public Notice No.10/2015-2020(2016年5月15日)を差し替えたものです。

🧵 これは商談で口に出す価値がある

第1回で述べたとおり、日本の生地の競争相手は基本的に中国製です。中国は免除国リストに含まれていません。買い手からすれば、中国から仕入れる場合は色ごとの試験と証明書の手配という手間が発生し、その分だけ納期と事務負担が増えることになります。

単価で負けている局面で、「弊社は日本原産なのでアゾ染料の事前船積証明が不要です。色数が多い企画でも書類が増えません」と言えるかどうか——価格以外の説得材料は、こういう細部から出てきます。

⚠️ 免除は「原産地」基準。日本の会社が売れば免除、ではない

附録2Xの免除は「その国を原産地とする(originating from)輸入品」に対する免除です。売り手が日本企業であることではなく、生地の原産地が日本であることが条件になります。第三国で生産した生地を日本経由で供給する場合や、複数原産地の商品を混載する場合は、免除が及ばない部分が出ます。自社の供給網に第三国生産が含まれるなら、原産地ごとに整理して確認してください。

出典:インド商工省DGFT 告示 No.19/2015-2020(2015年9月4日)および Public Notice No.32/2015-2020(2015年9月4日)/DGFT Public Notice No.14/2023(2023年6月14日、外国貿易政策2023 附録2X の免除国リスト更新。外国貿易政策1.03項・2.04項に基づく)/インド税関 公告に基づく事前船積証明の運用(基準値30mg/kg)

⑦ 関門4|ラベリング・表示——反物のB2B取引と小売段階の違い

— 「うちの生地に表示義務があるのか」を切り分ける —

インドの表示規制の中心は法定計量(包装商品)規則2011です。小売向けの「包装商品」には、製造者・包装者・輸入者の名称と住所、商品名、正味量、製造年月(輸入品は輸入年月)、小売価格、消費者相談窓口などの表示が義務づけられます。輸入品については輸入者情報と原産国の表示が求められます。

🔎 生地の反物は原則として対象外

同規則では、産業用消費者または機関消費者に供給される商品は「包装商品」の定義から除外されています。縫製工場・ミル・コンバーターに反物で納品する通常のB2B取引は、小売表示義務の対象になりません。

一方、カットクロスや手芸向けの小分け包装を小売流通させる段階では対象になります。ただしその段階の表示義務を負うのは通常インド側の輸入者・包装者であり、日本の売り手が直接負う義務ではありません。

実務上、日本の売り手が意識すべきなのは「法令上の義務」ではなく「買い手が必要とする情報を渡せているか」という点です。買い手は最終製品の段階で混用率・取扱い表示・原産国を自分の責任で表示します。その根拠となるデータを売り手が正確に出せなければ、買い手は表示を作れません。

🧵 サンプル送付時にそろえておく5項目

①混用率(正確な繊維組成)/②目付(g/m²)と有効幅/③8桁のHSコード(第2回参照)/④原産国(アゾ免除の根拠になる)/⑤取扱い・洗濯条件。この5項目を英語の1枚にまとめて添えるだけで、買い手側の社内手続きが一段速くなります。規制対応というより、買い手の事務コストを下げる営業行為として位置づけてください。

出典:インド消費者問題・食料・公的配給省「法定計量(包装商品)規則2011(Legal Metrology (Packaged Commodities) Rules, 2011)」— 表示事項および産業用・機関消費者向け供給の除外規定

⑧ 買い手の足元も揺れている——ポリエステル・ビスコースQCO撤回と訴訟

— 原料規制の変動は、買い手の仕入れ価格を動かす —

ここまでは「日本の売り手にかかる規制」でしたが、買い手側の原料規制も知っておく価値があります。インドの化繊原料には長くQCOがかけられており、「原料を安く輸入できない」ことがインド国内の生地価格を押し上げてきました。その構造がいま司法の場で動いています。

時期できごと
2025年11月12日官報告示により14件のQCOを撤回。うち7件が化繊(MMF)連鎖に直結する品目(テレフタル酸、エチレングリコール、ポリエステル紡績糸、産業用糸、ステープルファイバー、完全延伸糸=FDY、部分配向糸=POY)。ポリエステル連続長繊維完全延伸糸(品質管理)令2023の撤回を含む
2025年11月18日繊維省がビスコースステープルファイバー(VSF)のQCOを撤回。「良質な原料へのアクセス確保、国際競争力の向上」を理由として説明
2026年4月6日グジャラート高等裁判所の単独裁判官が撤回の効力を暫定的に差し止め
2026年5月15日ムンドラ税関当局がFDY・POY・仮撚加工糸(DTY)の輸入についてBIS/QCO遵守の徹底を指示
2026年6月8日同高裁の合議体が4月6日の暫定差止を取消。ただし本案の判断は単独裁判官の審理に委ねられ、最終決着は未了

ここが重要:この一連の動きは「日本の生地に必要な認証」の話ではありません。あくまでインドの買い手が原料を仕入れる条件の話です。ただし影響は間接的に及びます。

🧵 商談で使える読み方——「前提を固定しない」

原料QCOが外れれば、インドの生地メーカーは原料を安く調達でき、国産生地の価格競争力は上がります。逆にQCOが維持されれば原料コストは高止まりし、輸入生地が相対的に有利になります。いまはそのどちらに転ぶかが法廷で争われている状態です。

したがって商談では、「インド産は原料が高いから割高」といった前提を固定した話し方をしないこと。むしろ「原料QCOの件、御社の調達にはどう影響していますか」と聞くほうが有効です。買い手が今いちばん頭を悩ませている論点であり、この一言で「事情を分かっている売り手」という位置に立てます。

出典:2025年11月12日 官報告示(化学・石油化学局によるQCO撤回、化繊連鎖7件を含む計14件)/繊維省によるビスコースステープルファイバーQCO撤回(2025年11月18日、公共放送 News on AIR 報道)/Fibre2Fashion「India reimposes polyester yarn QCO after Gujarat HC stay」「Gujarat HC quashes interim stay on polyester yarn QCO withdrawal」(2026年、グジャラート高等裁判所2026年4月6日・6月8日各命令およびムンドラ税関2026年5月15日事務連絡に関する報道)

⑨ 商談前チェックリスト——5問で自社のリスクを判定する

— すべて「はい」なら、規制面の準備は整っている —

Q1. 自社の商材が技術繊維4分野(ジオ/アグロ/メディカル/プロテクティブ)に該当しないことを、8桁のHSコードと製品用途の両面で確認したか?

Q2. 該当する場合、対応するインド規格(IS番号)を特定し、BIS認証の取得に半年以上かかることを社内の事業計画に織り込んだか?

Q3. 合成編物(第60類)を扱う場合、自社コードにMIP条件が現在かかっていないかをDGFTの最新告示で確認したか?

Q4. 供給する生地の原産地が日本であること(=アゾ染料試験の免除が及ぶこと)を、第三国生産分も含めて整理したか?

Q5. サンプルに混用率・目付・有効幅・HSコード・原産国・取扱い条件を記載した英文の仕様書を添付しているか?

⚠️ 最も多い失敗は「調べなかった」ではなく「買い手に聞かなかった」

規制の最終的な当事者は輸入者=インドの買い手です。買い手は自分の輸入実務を熟知しており、「この品目は何が必要か」を最も正確に知っている情報源でもあります。日本側で調べ尽くしてから動くより、「弊社の商材で、御社側の輸入手続きに必要な書類を教えていただけますか」と早い段階で聞くほうが速く、かつ関係構築にもつながります。本稿の内容は、その会話を対等に成立させるための前提知識として使ってください。

📊 第3回のまとめ——「入れないリスク」の正体

一般アパレル生地はBIS認証不要:綿織物・合繊織物・一般ニット生地・裏地・芯地は、現時点でQCOの対象になっていない。認証を取らずに輸出できる。

⚠️ 技術繊維は直撃する:ジオ・アグロ・メディカル・プロテクティブの4分野は標準マークなしに輸入も保管も展示も不可。取得の目安は6か月以上。引き合いを取ってから始めると間に合わない。

🧮 MIPは日本製に届かない:下限3.5米ドル/kgは目付200g/m²換算で約111円/m。日本製1,000円/mはその約9倍。ただし期限管理だけは必要(2026年3月31日期限、延長告示は未確認)。

🎯 アゾ染料免除は商談材料になる:附録2Xで日本は免除国。中国は含まれない。「色ごとの試験も証明書も不要」は価格以外の差別化になる。

📄 ラベリングは買い手の義務:反物のB2B納品は小売表示義務の対象外。売り手の仕事は混用率・目付・幅・HSコード・原産国を正確に渡すこと。

🔑 買い手の前提を固定しない:化繊原料QCOの撤回は係争中(2026年6月8日に暫定差止が取消、本案は未了)。「インド産は原料が高い」という前提で話を組み立てない。

⑩ 留意点・前提条件

  • 確定情報と目安の区別:QCOの品目・告示番号・施行日、MIPの対象コードと金額、アゾ染料の免除国リストは公表資料に基づく確定情報です。一方、BIS認証(FMCS)の所要期間・履行保証額・費用は実務解説に基づく目安であり、公的に確定した数値ではありません。品目・工場数・試験項目により大きく変動します。
  • QCOは追加・撤回が頻繁に行われます:インドは近年QCOの新設と撤回を短い間隔で繰り返しています。本稿は2026年8月時点で確認できた範囲の整理であり、取引の実行前に必ず繊維省・BIS・DGFTの最新告示を確認してください。
  • QCO該当性の判定は用途で変わります:同じ不織布でも、医療用・防護用・農業用・土木用のいずれとして販売するかで該当性が変わり得ます。HSコードだけでは判定できません。製品用途とインド規格の適用範囲の両面から個別に確認してください。
  • MIPの現況について:本稿執筆時点でDGFTの2026-27年度告示のなかに延長告示を確認できないという事実を記載したものであり、「MIPが恒久的に廃止された」ことを意味するものではありません。過去に何度も再導入されています。
  • アゾ染料の免除は原産地基準です:売り手の所在地ではなく商品の原産地で判断されます。第三国生産分を含む供給網の場合は、原産地ごとに整理してください。
  • ラベリング義務の当事者:法定計量(包装商品)規則2011の表示義務は、原則としてインド国内で小売流通させる包装商品に対するものであり、通常はインド側の輸入者・包装者が負います。日本の売り手が直接負う義務ではありません。
  • 化繊原料QCOの係争は継続中です:2026年6月8日の高裁合議体決定により暫定差止は取り消されましたが、本案の審理は継続中であり、最終的な効力は未確定です。税関の運用が地域・時点によって異なる可能性もあります。
  • 本稿は法務・通関の助言ではありません:QCO該当性の判定、認証の必要性、輸入政策条件の適用については、インド側の通関業者(CHA)、BIS認証の支援機関、法務専門家に必ず確認してください。

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第4回:展示会・現地商談の進め方——サンプル・価格表・通訳・アポの取り方

買い手(第1回)、価格(第2回)、規制(第3回)が揃ったら、次は実際に会いに行く段階です。インドの主要な繊維関連展示会と時期、持って行くべきサンプルの形(反物かハンガーか、何色そろえるか)、英語の価格表の書き方、通訳の使い方、商談後に必ず起きる「見積もりを送ったのに返信が来ない」への対処まで、現地商談の実務を整理します。

主要引用・参照元一覧

  • インド規格局(BIS)「Quality Control Orders on Textile Products」(BIS公式サイト)/インド規格局法2016(Bureau of Indian Standards Act, 2016)
  • インド繊維省「Quality Control Orders」一覧 — ジオテキスタイル(品質管理)令2022および改正令、プロテクティブ・テキスタイル(品質管理)令2022および改正令、アグロ・テキスタイル(品質管理)令2023および改正令2024、メディカル・テキスタイル(品質管理)令2023および改正令2024
  • インド政府情報局(PIB)「Ministry of Textiles extends implementation of Geo Textiles (Quality Control) Order, 2022 from January 1st, 2024」— S.O. 1706(E)(2023年4月10日)、改正令(2023年5月24日)、19品目、施行日を2023年10月7日から2024年1月1日へ延期
  • メディカル・テキスタイル(品質管理)令2023(2023年9月27日通知、2024年10月1日施行。中小企業向けの猶予は2025年4月1日まで、既存在庫の移行期間あり)
  • インド規格局(BIS)「Foreign Manufacturers Certification Scheme(FMCS)」の制度枠組み/India Briefing「A Guide to BIS Certification in India for Foreign Manufacturers」(所要期間・履行保証・費用は実務上の目安
  • インド商工省DGFT 告示 No.33/2024-25(合成編物13コードへのMIP、2024年12月31日まで)/2025年1月7日告示(2026年3月31日まで延長)/告示 No.05/2025-26(2025年4月23日、ITC(HS)2022 第60類の輸入政策条件改正。4コードにMIP 3.5米ドル/kg、2026年3月31日まで。前払輸出認可保有者・輸出指向企業・経済特区ユニットはDTA販売しない限り対象外)/告示 No.46/2025-26(2025年10月21日、目付28〜48g/m²の除外)
  • インド商工省DGFT 告示 No.19/2015-2020(2015年9月4日)および Public Notice No.32/2015-2020(2015年9月4日)— 繊維・繊維製品輸入時のアゾ染料に係る事前船積証明の要件(基準値30mg/kg)
  • インド商工省DGFT Public Notice No.14/2023(2023年6月14日)— 外国貿易政策2023 附録2X の免除国リスト更新(欧州連合加盟国、セルビア、ポーランド、デンマーク、オーストラリア、カナダ、日本、韓国、英国)。旧 Public Notice No.10/2015-2020(2016年5月15日)を差替え
  • インド消費者問題・食料・公的配給省「法定計量(包装商品)規則2011(Legal Metrology (Packaged Commodities) Rules, 2011)」— 表示事項および産業用・機関消費者向け供給の除外規定
  • 2025年11月12日 官報告示 — 化繊(MMF)連鎖7品目を含む14件のQCO撤回(ポリエステル連続長繊維完全延伸糸(品質管理)令2023の撤回を含む)
  • 繊維省によるビスコースステープルファイバー(VSF)QCOの撤回(2025年11月18日、公共放送 News on AIR 報道)
  • Fibre2Fashion「India reimposes polyester yarn QCO after Gujarat HC stay」「Gujarat HC quashes interim stay on polyester yarn QCO withdrawal」— グジャラート高等裁判所 2026年4月6日 暫定差止命令、ムンドラ税関 2026年5月15日 事務連絡、同高裁合議体 2026年6月8日 暫定差止取消(本案審理は継続中)
  • 為替:1米ドル=159円(2026年7月末時点の市場実勢値)— 本稿のMIP換算計算に使用

※本稿は公開情報の要約・整理を目的とした実務ガイドであり、法務・通関・認証・投資・取引の助言を意図するものではありません。数値・制度は執筆時点(2026年8月)で確認できた各機関の公表資料に基づきます。品質管理令(QCO)・輸入政策条件・認証手続は頻繁に変更されますので、実際のご判断にあたっては最新の一次情報および専門家の確認を必ず行ってください。

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背戸土井 貴之

Author
背戸土井 貴之 / 株式会社インフォアイ 代表取締役

繊維商社にてインド生産を中心とした業務に12年間従事。現地工場との生産管理や品質管理、繊維ビジネスの実務経験を積む。その後、2002年にインドと日本を拠点とする株式会社インフォアイを設立。繊維業界向けのクラウドソリューション開発や画像加工サービス「キリコム」を中心に事業を展開。現在は繊維業向けクラウド「KIRIKOM PLUS」など、繊維業界の業務効率化とデジタル化を目的としたソリューションを日本・海外の企業に提供している。

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