私がまだ現役の課長だった頃、部の朝会で私は質問されたことがあります「多忙な仕事をこなすのに何を意識していますか?」私は即座に「部下を育てる事です」と答えました。
自分の代わりに出来る人を育てる事が出来れば、今までの自分の仕事を引き継いで、やりたかった新規開拓や新企画に挑戦できるわけです。育てた部下が
又その部下を育てていくことで、組織は順調に拡大し続けることが出来るのです。自分が成長し続けるためにも後輩を優秀な後輩に育てる必要があるのです。
しかし、部下を育てると言っても容易な事ではありません。
職場でのコミュニケーションの中でも難しい仕事の一つだといえます。
どうやったら後輩を育てる事が出来るのでしょうか?
私のことで恐縮ですが、私は南九州の宮崎出身の田舎者でした。
大阪に来るまで、九州を出たことがありませんでしたので、訛りがきつく、
良く先輩から訛りのことで、からかわれていました。
T社に入社して一年間はデリバリーをやり二年目から営業につきました。
デリバリー時代に私はこの仕事は向いていないと感じ、機会があれば田舎に帰りたいと思っていました。
営業一年目は寝具課に入りましたが、どうしても商品を好きになれない。希望を出して、田舎に帰るチャンスがあるかもしれないと九州地方の販売員になりました。重いキャリーバッグを両手に抱え、九州各地を転々として売りに歩く仕事も好きになれませんでした。もう一度、希望を出して婦人服ボトムの課に入れてもらいました。この頃には、もう自分自身で営業失格だと自覚するに至っていました。
鳴かず飛ばずで、一年が経過し、毎日辞める事を考えていた時、新入社員が入り、初めて私にU君という部下が付きました。しかし、優秀な新入社員との噂の社員です。いつも目がギラギラして、いかにも気の強そうな後輩です。私はU君の教育係を命じられて躊躇しました。歓迎会の宴席で仕事に関しての矢継ぎ早の意欲的な質問に閉口しましたが、突っ込んで話してみると、熱い心を持った好青年で、好きになりました。
私はこの後輩の模範となるべく努力するようになったのです。「ダメ営業では教えることは出来ない」この後輩に馬鹿にされないようにノルマもこなし、仕事の本も読み、勉強するようになりました。先輩に指導されても反応出来ない私が、この熱いU君と切磋琢磨するようになったのです。毎週末には飲みに行き、仕事の話だけでなく、家族のことや、恋愛、人生論にまで話は及びました。彼は遅くなると私の家に泊まり込んでまで熱く語りました。
このころから課長からの評価も高くなり、「お前の企画力はたいしたものだ」とまで言ってもらえるようになったのです。
U君が入社するまでは、私は仕事に対して受け身だったと思います。与えられた仕事をイヤイヤこなす毎日が面白いはずがありません。U君との出会いが仕事への向き合い方を変えてくれたのです。
「教えることは学ぶこと」だったのです。私は教育係を命じられましたが私がU君を教えることで多くのことを学びました。今から思うと私はU君と同じ目線で物を考え、行動していたと思います。私も彼を信頼し、彼も私を信頼していたように思います。
その後、私はボトムの課長になり、彼はブラウスの課の課長になって業績を競う仲になりました。
いくら先輩が後輩を指導しようと思っても、その後輩が先輩の話は聞きたくないと思っていたら、面従腹背になり、なかなか指導にはなりにくいという事になります。しかし、もちろん、後輩が聞きたくない顔をしているからといって何も言わないでおくと、後輩の指導にはなりません。
後輩が先輩の話を聞きたくないと思うのは先輩を尊敬出来てないからだと思います。
1)手本を見せる
部下は上司のことを良く見ています。口では立派なことを言っても、行動が伴っていなければ部下は聴く耳を持ちません。
先ずは先輩がやって見せ、手本を見せることです。
山本五十六の言葉「やってみせ。言って聞かせて、させてみせ、誉めてやらねば人は動かじ」はあまりにも有名ですが、この言葉が核心をついているからだと思います。
後輩を育てるためには自分がしっかり見本を見せることが前提です。
その行動、言動に納得いってこそ、後輩は聴く耳を持ちます。
結局、部下を育てるという行動は自分を成長させることに繋がります。
2)権限移譲する
車の運転、自転車もそうですが、理論的に分かっていても、実践してみなければ運転できるわけがありません。実際に運転してもらう事が技術習得の早道です。
やらせてみてこそ、後輩は仕事の難しさとか楽しさが実感でいるのだと思います。「やらせるのにはまだ早い」とか思っていると、いつまで経っても任せることが出来ません。かといって、何でもかんでも仕事の丸投げは後輩を潰すことになります。後輩の失敗の責任は全部自分が取る気持ちで仕事を渡すことが大事です。そうすれば後輩は思い切って仕事に挑戦することが出来ます。
3)適切な指示、注意をし、成果は素直に褒める
後輩が仕事に挑戦すると、必ず失敗もします。その時は何故失敗したかを
一緒に考えて適切な指示、注意をします。決して頭ごしに怒ったりしないことです。怒られる恐怖から二度と挑戦する意欲を削がれたら困ります。
反対に後輩が成果を出した時は一緒に喜んで100%褒めます。
私がまだ若くて仕事に自信を持っていなかった時「お前の企画力は大したもんだ」と褒められて嬉しくなり
それがきっかけで仕事に一生懸命になれた事を思い出します。
4)コミュニケーションを良くする
後輩には任せた仕事の報告をさせます。その報告について質疑応答しながら
アドバイスをし、先輩からも報告、相談をすることによってコミュニケーションが良くなります。攻撃的な先輩の下で育った後輩は、怒られるのが怖くて失敗を隠す、報告を捏造することに繋がります。受け身的な先輩の下で育った
後輩は先輩の反応が少ないのでやる気を失い、先輩をなめてかかります。
報告、連絡、相談が習慣化され、コミュニケーションが良くなればなるほど
後輩が育ちやすい環境が出来ていきます。
山本五十六の言葉に続きがあります。
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
5)信頼を寄せる
感謝され、信頼されれば後輩は責任感が強くなり、俄然、やる気が出るはずです。
私もT社の社長から説教され、厳しい指導を受けた時、「いずれ、お前が製品部のリーダーになると見込んでいるから言っている」と言われ、厳しい指導を素直に受け入れた事を思い出します。
6)後輩に考えさせる
後輩を育てる為に何でも答えを直ぐに言うと、後輩は自ら考えることをせず
何でも先輩に聞いてきます。ヒントを与えて自ら考える力を付けさせる事が大事です。「何故、企画提案の営業が必要なのか?」「得意先の商品のテイストは?
主力商品は何か?」自ら考える営業を育てなければいけません。
7)後輩の事を良く知る
人は自分のことに興味を持っている人に好意を持つものです。
後輩の仕事以外のことの趣味や家族のことも良く知ることがコミュニケーションを良くすることに繋がります。
8)教育は根気仕事
知識として知ることは比較的簡単であるが、本当に身について実行できるためには長年の訓練が必要です。T社では「教育1年、修練10年」と言われておりました。育てるには粘り強い根気が必要と覚悟すべきです。