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雑感

注意の仕方

先月、電車内でタバコを吸っていたことを注意された男が、注意した男子高校生に殴る蹴るなどの暴行を加え重傷を負わせた事件がありました。
SNSでは男子高校生の勇気を称える声とともに「見て見ぬふりをする大人が情けない」との声も上がったそうです。
高校生がどのように注意をしたかが分かりませんが、暴力男は皆の前で注意され逆ギレしたのは間違いありません。

若い頃、私も似た経験があります。
家路に向かう電車内での出来事です。夜も遅く、車内はまだ座れる席もあるという感じで、空いていました。そこに、中年の男性が足を組み、大きな声で携帯電話で長々と話をしています。話を聞くつもりはありませんでしたが、どうしても聞こえてしまうので、聞いてしまいました。内容はどうでも良いようなことで、急ぐような話ではありません。私はちょうど前の席に座り、周りの人は、しかめ面をして携帯電話の通話に迷惑している様子でした。私も同じように、しかめ面して我慢をしていましたが、長々と続く話に、つい「車内で電話をかけたら、あかんやろ!」と大声で注意しました。

車内の全員がこちらを注視しました。その男性は携帯電話を切って、「誰が電話をしたらあかんゆうて決めたんや!どうしても必要なことやったら、ええのんちゃうか!車掌にどちらが、おおとんのか、聞こやないか」私は「そんなもん、車掌に聞かんでもわかっとる」その男性は席を立ち、「降りろ!話をつけよやないか!」とドアの前に立ちました。私はついていくつもりはありませんでしたが、次の停車駅は私の降車駅の千里丘駅でした。

しかたなしに降り、彼が向かうプラットホームの端までついていきました。彼は立ち止り、こちらを向く、私は走って逃げようか、どうしようかと思っていたその時、彼が「すみませんでした!許してください!あなたが言うことが正論です。みんなの前で恰好がつかんので、あのように言いました。」と言って頭を下げたのです。私はホッと胸をなでおろしました。

数日後、私はその話を友人に話しました。

その友人は興味深そうに話をきいていましたが、「市来、それはお前が悪い、そんな注意の仕方やったら、誰でも素直に聞けるはずがない、最悪な注意の仕方や!怪我せんかったんはラッキーと思わなあかんで!」

私の友人は得意そうに、彼が車内で体験した話をしてくれました。

その車内は混んでいて、作業着を着たおじさんが座席で横になって寝ていたそうです。もちろん立っている人がいるのですが、注意する人はいなくて、皆、見てみないふりしていました。

彼は、勇気を振り絞り、腰をかがめて「おじさん、気分が悪いんですか?なんでしたら、車掌を呼びましょうか?」そのおじさんは「いやいや、大丈夫や」といって、ちゃんと座りなおしたというのです。なるほど、素晴らしい注意の仕方です。

友人の注意の仕方は相手に立ち直るキッカケを与えています。しんどくて寝てはいたが、混んできても起き上がるキッカケがなかったのかもしれません。相手の立場を考えて、体面を保ちながら、優しく注意をする。

私の注意の仕方は相手の顔がつぶれます。私の注意が正論であればあるほど、、彼は恥を衆目にさらされることになるのです。素直に注意をきけるはずがありません。

仕事で注意をする場合もそういう配慮が必要ではないでしょうか?場合によっては恥をかかせることも必要でしょうが、相手が恥をかかせられたことだけにこだわってしまったら元も子もありません。その人物、時と場合を考えながら上手に叱る、これはハイテクニックですね。相手が反省するように叱らなければ意味がありません。

中国の工場に当社の品管が指導に行きます。その指導員は仕事熱心のあまり、縫製ラインの工員に向かって興奮して叱りました。中国の社長から「あの指導の仕方は問題がある。いくら縫製の仕方に問題があっても、大勢の前であんな怒られ方をしたら、やめてしまいます。」とクレームがきたことがあります。

数多くの失敗をしてきた私ですが、「短気は損気」この言葉が一番心に沁みます。

私が20代の時、仕事に自信を失い、会社を辞めたいと強く思っていた時に出会い、感動した本があります。

D、カーネギーの「人を動かす」という本です。

その中に、注意の仕方の例がありますので抜粋して紹介したいと思います。

“オクラホマ州エニッド市のジョージ、ジョンストンは、ある工場の安全管理責任者で、現場の作業員にヘルメット着用の規則を徹底させることにした。ヘルメットをかぶっていない作業員をみつけしだい、規則違反を厳しくとがめる。すると、相手は、不服げにヘルメットをかぶるが、目を離すと、すぐ脱いでしまう。そこでジョンストンは、別の方法を考えた。
「ヘルメットってやつは、あんまりかぶり心地の良いものじゃないよ、ねえ。
おまけに、サイズが合っていなかったりすると、たまらんよ。……
君のは、サイズ合っているかね」。
まず、こう切り出して、このあと、多少かぶり心地が悪くても、それでも大きな危険が防げるのだから、ヘルメットは必ずかぶろうと話すのである。これで相手は怒ったり恨んだりすることもなく、規則は良く守られるようになった。“

これは相手の立場に立って、ヘルメットをかぶりたくない理由を代弁し、理解を示し、相手の心に聞き入れる準備をさせたうえで、ヘルメットをかぶることに賛同してもらったということだと思います。

そして、偉大な心理学者ハンス、セリエの言葉を紹介しています。

「我々は他人からの賞賛を強く望んでいる。そして、それと同じ強さで他人からの非難を恐れる」。