実践ガイド 全6回・第4回 / インドで日本ブランドを売る
税制度と価格設計——関税・GST・MRP・法人税で「売値」はこう決まる
— 日本の上代は、インドの店頭で何倍になるのか。輸入段階の税(BCD・SWS・IGST)、販売段階のGST(5%と18%の境目は1点2,500ルピー)、MRP表示義務、そして利益にかかる法人税・送金にかかる源泉税まで —
インド関税法(Customs Act, 1962)・関税定率法(Customs Tariff Act, 1975)・財政法(Finance Act, 2018)第110条(社会福祉課徴金)・GST評議会 第56回会合の勧告および Notification No.9/2025-Central Tax (Rate)(2025年9月22日施行)・法定計量(包装商品)規則(Legal Metrology (Packaged Commodities) Rules, 2011)・所得税法(Income-tax Act, 1961)第115BAA条および所得税法(Income-tax Act, 2025)第200条・日印租税条約・日印包括的経済連携協定(CEPA)ほかをもとに編集。関税率は品目(HSコード8桁)ごとに異なり、予算案のたびに改定される。本稿の試算はすべて「仮定」に基づく構造の説明であり、実際の税率はインド中央間接税関税委員会(CBIC)の関税表で確認されたい。
「インドで売るといくらになるのか」——これは、ご相談の最初に必ず出る質問です。前作「インドで生地を売る」の第2回(上陸コストの作り方)では、生地を輸入する側の計算を扱いました。今回は完成品のブランド商品を消費者に売るケースです。
価格を決める税は、大きく分けて4つの段階でかかります。①輸入するとき(関税・IGST)、②売るとき(GST)、③利益が出たとき(法人税)、④日本へお金を戻すとき(配当・ロイヤルティへの源泉税)。順に見ていきます。
一言でまとめると:輸入時には、CIF価格をベースに基本関税(BCD)、BCDの10%の社会福祉課徴金(SWS)、さらにそれらを含めた額に統合GST(IGST)がかかる。衣料品の多くはBCDが20%前後(品目により従量税との高い方)で、BCD・SWSは戻らないコスト、IGSTはGST登録していれば仕入税額控除で回収できる。販売時のGSTは2025年9月22日の改正で5%・18%の2段階が中心となり、衣料品・履物は1点あたり税抜2,500ルピー以下なら5%、超えると18%。この境目をまたぐと店頭価格が一気に約12%上がるため、価格帯の設計が重要になる。包装商品にはMRP(最高小売価格・税込)、輸入者名、原産国などの表示義務がある。利益には法人税(内国法人の選択税率22%、付加税・目的税込み実効約25.17%)、日本への配当・ロイヤルティには日印租税条約で10%の源泉税がかかる。本稿の仮定では、日本の上代4,900円の衣料品が、インドの店頭では約8,000円相当になる。
✏️ 編集後記
税は本シリーズで最も「数字が変わりやすい」テーマである。特に衣料品の基本関税は、品目ごとに従量税の下限が設定されている場合があり、商用の関税データベースでも表示がまちまちであった。そのため本稿では、BCDの水準を「多くの品目で20%前後」と幅を持たせて記載し、試算はすべて仮定として明示した。GSTの2,500ルピーの境目は、2025年9月17日付の税率通達(同22日施行)に基づく。境目の判定が税抜か税込かについては解説により表現に揺れがあるが、本稿では1点あたりの販売価格(税抜)で判定するとの解釈に立った。実際の値付けにあたっては会計士に確認されたい。
この記事の内容
① 先に答え——「上代×1.5〜2倍」を前提に、価格帯から逆算する
② 輸入するとき——BCD・SWS・IGST
③ 売るとき——GST(5%と18%の境目)
④ MRP表示と法定計量規則
⑤ 試算——日本の上代4,900円の衣料品はインドでいくらになるか
⑥ 利益が出たとき——法人税
⑦ 日本へお金を戻すとき——配当・ロイヤルティと源泉税
⑧ 税と価格のチェックリスト
① 先に答え——「上代×1.5〜2倍」を前提に、価格帯から逆算する
— 日本の値札を持ち込まない —
関税・GST・輸送費・流通マージンを積み上げると、日本の上代の1.5〜2倍程度になるのが一般的な感覚です(品目・ルート・マージン構造で大きく変わります)。だからこそ、「日本の価格×為替」で考えるのではなく、「インドのこの価格帯で、この顧客に売る」から逆算して、商品構成・仕様・ルートを決めることが大切です。
② 輸入するとき——BCD・SWS・IGST
— 戻るものと戻らないものを分けて考える —
| 税 | 課税ベース | 衣料品での目安 | 戻るか |
|---|---|---|---|
| 基本関税(BCD) | 課税価格(CIF+α) | 多くの品目で20%前後。一部は「◯%または1点あたり◯ルピーの高い方」という従量税併用。HSコードごとに要確認 | 戻らない(コスト) |
| 社会福祉課徴金(SWS) | BCDの額 | BCDの10%(品目により免除あり) | 戻らない(コスト) |
| 統合GST(IGST) | 課税価格+BCD+SWS | 国内販売時と同じ税率(衣料品は5%または18%) | GST登録していれば仕入税額控除で回収可 |
日印包括的経済連携協定(CEPA、2011年発効)により、日本原産の品目の一部はBCDが減免されています。適用には日本商工会議所が発給する特定原産地証明書が必要で、原産地規則(日本で十分な加工がされているか)を満たす必要があります。「日本ブランド」でも、中国やASEANで生産した商品は日本原産にはなりません。
⚠ 関税率は毎年変わる:インドの関税率は毎年の予算案(2月)で改定されます。また、品目によっては一般税率よりも高い税率や、従量税の下限がかかることがあります。商品ごとにHSコード8桁を確定し、インドの通関業者に最新税率を確認してください。
③ 売るとき——GST(5%と18%の境目)
— 2025年9月22日施行の税率改定で、衣料品の境目が1,000ルピーから2,500ルピーに —
インドのGST(物品・サービス税)は、2025年9月の改定(いわゆるGST 2.0)で、5%と18%の2段階を中心とする体系に整理されました(一部の奢侈品等には40%)。日本ブランドの商品に関係する主な点は次のとおりです。
| 品目 | 改定後のGST | ポイント |
|---|---|---|
| 衣料品・服飾雑貨(第61類・第62類など) | 1点あたり税抜2,500ルピー以下:5% 2,500ルピー超:18% | 改定前は1,000ルピーが境目で、超えると12%だった。1点ごとの販売価格で判定。値引き後の価格で判定されるため、セールで税率が変わることもある |
| 履物 | 1足あたり2,500ルピー以下:5%/超:18% | 衣料品と同様の構造 |
| 化粧品・日用品の一部 | 多くが5%または18%に整理(一部の石鹸・シャンプー等は5%へ引下げ) | HSコードごとに確認 |
| 生活雑貨・文具・バッグ等 | 品目により5%または18% | HSコードごとに確認 |
GST登録は州ごとです。店舗や倉庫を置く州ごとに登録が必要になり、州をまたぐ販売にはIGSTがかかります。ECのマーケットプレイスで販売する場合は、運営事業者によるGSTのTCS(源泉徴収的な税)や所得税のTDSが売上から差し引かれる仕組みもあります。
④ MRP表示と法定計量規則
— 店頭価格の「上限」を自分で書く国 —
インドでは、消費者向けの包装商品にMRP(Maximum Retail Price:最高小売価格、すべての税込み)を表示する義務があり(法定計量(包装商品)規則、2011年)、MRPを超えて販売することはできません。値引きは自由です。輸入品の場合、主に次の表示が必要です。
- 輸入者の名称・住所(インド側の輸入者)
- 原産国
- 商品の一般名称・正味量(数量・サイズ)
- 製造または輸入の年月
- MRP(税込)
- 消費者相談窓口(電話番号・メールアドレス)
ラベルは通関前(保税倉庫で貼付する場合を含む)に整えておくのが原則で、表示不備は通関の遅れや罰則の原因になります。包装商品の輸入者は法定計量当局への登録も必要です。MRPは一度印刷すると変えにくいため、③のGSTの境目を踏まえて慎重に決めてください。
⑤ 試算——日本の上代4,900円の衣料品はインドでいくらになるか
— 数値はすべて仮定。構造を理解するための例 —
次の仮定で、日本の上代4,900円(日本の卸値2,000円)のTシャツを、インドのディストリビューター経由でモールの店舗で売る場合を試算します。
| 段階 | 計算 | 金額(ルピー) |
|---|---|---|
| 日本からの出荷価格(FOB) | 2,000円 × 0.57ルピー/円(仮定) | 1,140 |
| 運賃・保険料 | FOBの10%(仮定) | 114 |
| CIF(課税価格) | 1,254 | |
| 基本関税(BCD) | 20%(仮定) | 251 |
| 社会福祉課徴金(SWS) | BCDの10% | 25 |
| 通関・国内物流・ラベル貼付 | CIFの8%(仮定) | 100 |
| 上陸原価(IGSTは控除で回収する前提で除外) | 1,630 | |
| 輸入者(ディストリビューター)のマージン | 上陸原価の30%(仮定) | 489 |
| 小売店への卸価格 | 2,119 | |
| 小売のマージン | 税抜売価の45%(仮定。モール賃料を含む) | 1,734 |
| 税抜売価 | 3,853 | |
| GST | 2,500ルピー超のため18% | 694 |
| 店頭価格(MRP) | 約4,550(≒約8,000円) |
日本の上代4,900円の約1.6倍です。ここで注目したいのがGSTの境目です。仮に自社EC・直営店で流通マージンを圧縮し、税抜2,499ルピーに収めれば、GSTは5%でMRPは約2,624ルピー(≒約4,600円)。日本の上代とほぼ同水準で、上陸原価に対する粗利も約35%確保できます。
| 税抜売価 | GST率 | MRP(税込) | 差 |
|---|---|---|---|
| 2,499ルピー | 5% | 約2,624ルピー | — |
| 2,600ルピー | 18% | 約3,068ルピー | 税抜で約4%高いだけで、店頭では約17%高くなる |
「2,500ルピーの壁」の手前に主力商品を集めるのか、はっきり上の価格帯で高付加価値を訴求するのか——この判断は、商品構成と参入ルートの選択と一体です。
⑥ 利益が出たとき——法人税
— インド法人を作る場合 —
| 区分 | 税率(基本) | 備考 |
|---|---|---|
| 内国法人(選択税率) | 22%(付加税10%・保健教育目的税4%込みで実効約25.17%) | 旧所得税法第115BAA条。2026年4月から新しい所得税法(2025年法)の第200条に移行。各種の優遇措置を受けないことが条件で、一度選ぶと撤回できない |
| 内国法人(通常税率) | 売上規模により25%または30%(+付加税・目的税) | 優遇措置を使う場合 |
| 外国法人(支店等) | 35%(+付加税・目的税) | 2024年度から40%→35%に引下げ。小売目的の支店は外資規制上も一般的でない(第5回) |
インド子会社と日本本社の間の取引(商品の仕入れ、ロイヤルティ、役務提供)は移転価格税制の対象となり、独立企業間価格での取引と文書化が求められます。また、日本本社の社員がインドに長期滞在して実質的に事業を行うと、日本本社自体がインドで課税される恒久的施設(PE)と認定されるリスクがあります。
⑦ 日本へお金を戻すとき——配当・ロイヤルティと源泉税
— 日印租税条約で10%に —
| 支払の種類 | インド国内法の源泉税率(目安) | 日印租税条約の上限 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 配当 | 20%(+付加税・目的税) | 10% | 条約適用には日本の居住者証明書(TRC)とForm 10F、インドのPAN(納税者番号)等の手当てが必要 |
| ロイヤルティ(ブランド使用料) | 20%(+付加税・目的税) | 10% | フランチャイズ・ライセンス契約で受け取る使用料。インド側では輸入役務としてGST18%のリバースチャージもかかる(インド側は控除可) |
| 技術上の役務の対価 | 20%(+付加税・目的税) | 10% | 研修・システム提供なども該当しうる |
日本側では、インドで源泉徴収された税について外国税額控除を検討します。フランチャイズやライセンスで参入する場合、ロイヤルティ率の設定と源泉税・GSTの負担者を契約で明確にしておくことが大切です。
⑧ 税と価格のチェックリスト
チェックリスト
☐ 主要商品のHSコード8桁を確定し、BCD・SWS・IGSTの最新税率を通関業者に確認した
☐ 日本原産品について、日印CEPAの特定原産地証明書を使えるか確認した
☐ 衣料品・履物の「1点2,500ルピー」の境目を踏まえて価格帯を設計した
☐ MRP・輸入者名・原産国などの表示ラベルの作成手順を決めた
☐ 店舗・倉庫を置く州ごとのGST登録の計画を立てた
☐ インド法人を作る場合の法人税率(選択税率22%)の適用可否を会計士と確認した
☐ 配当・ロイヤルティの源泉税(条約10%)の手続(TRC・Form 10F・PAN)を準備した
☐ 本社とインド法人の取引について移転価格の方針を決めた
次回は、いよいよ店舗を開く話です。外資100%で出店できるのか、どんな許認可が要るのか、物件と契約はどうするのかを整理します。
Series — 全6回
「インドで日本ブランドを売る」実践ガイド 全6回
主要引用・参照元一覧
- インド関税法(The Customs Act, 1962)、関税定率法(The Customs Tariff Act, 1975)第1表(第61類・第62類ほか)
- 財政法(The Finance Act, 2018)第110条——社会福祉課徴金(Social Welfare Surcharge)
- インド中央間接税関税委員会(CBIC)関税表・関税通達
- GST評議会 第56回会合(2025年9月3日)勧告、Notification No.9/2025-Central Tax (Rate)(2025年9月17日、同年9月22日施行)——衣料品・履物の5%適用上限の2,500ルピーへの引上げ、超過分の18%適用
- 法定計量(包装商品)規則(The Legal Metrology (Packaged Commodities) Rules, 2011)——MRP・輸入者名・原産国等の表示義務、輸入者登録
- 所得税法(The Income-tax Act, 1961)第115BAA条、所得税法(The Income-tax Act, 2025)第200条
- 財政法(The Finance (No.2) Act, 2024)——外国法人の基本税率の引下げ(40%→35%)
- 所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とインド共和国政府との間の条約(日印租税条約)——配当・使用料・技術上の役務に対する料金の限度税率
- 日本国とインド共和国との間の包括的経済連携協定(日印CEPA、2011年8月1日発効)、日本商工会議所 特定原産地証明書の案内
- 本サイト連載「インドで生地を売る」第2回(上陸コストの作り方)、本シリーズ第1回〜第3回
※本稿は公開情報の要約・整理を目的とした実務ガイドであり、法務・税務・知的財産・労務・投資の助言を意図するものではありません。法令・規則・税率・補助制度は執筆時点(2026年10月)で確認できた各機関の公表資料および専門家の公表解説に基づきます。制度は頻繁に改定されますので、実際の出願・投資・出店・雇用にあたっては最新の一次情報をご確認のうえ、インドの弁護士・勅許会計士(CA)・商標代理人、JETRO・JIIPA等の支援機関にご相談ください。
インフォアイは2002年の創業から25年、インド・ジャイプールに自社拠点を置き、日印国際産業振興協会(JIIPA)の理事として日印のビジネス交流に関わってきました。市場調査、パートナー探し、多言語(英語・ヒンディー語)サイト構築、展示会・商談支援まで、インド進出の実務をご相談いただけます。
繊維商社にてインド生産を中心とした業務に12年間従事。現地工場との生産管理や品質管理、繊維ビジネスの実務経験を積む。その後、2002年にインドと日本を拠点とする株式会社インフォアイを設立(2026年で25年目)。創業当初は売上をつくるためにアパレルのOEM受注を手がけ、インドでの生産を続けてきた。前職を含めたインドでの繊維生産・生産管理の経験は34年。繊維業界向けのクラウドソリューション開発や画像加工サービス「キリコム」を中心に事業を展開。現在は繊維業向けクラウド「KIRIKOM PLUS」など、繊維業界の業務効率化とデジタル化を目的としたソリューションを日本・海外の企業に提供している。
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