実践ガイド 全6回・第5回 / インドで日本ブランドを売る
店舗を開く——独自資本(外資100%)でできること・できないこと
— 単一ブランドなら外資100%で出店できる。ただし外資51%超なら「仕入れの30%をインドから」。複数ブランドのセレクト型は事実上難しい。法人設立・許認可・物件・オムニチャネルまで —
インド商工省 産業国内取引促進局(DPIIT)統合FDI政策(Consolidated FDI Policy)単一ブランド小売・複数ブランド小売・電子商取引の各条項、Press Note No.4(2019年)・会社法(Companies Act, 2013)第149条第3項・外国為替管理(非負債性証券)規則(FEMA (Non-Debt Instruments) Rules, 2019)・インド準備銀行(RBI)外国投資報告(FC-GPR)・各州の店舗・事業所法・登録法(Registration Act, 1908)第17条ほかをもとに編集。外資規制は政府のプレスノートで随時改定される。投資判断の前に、DPIIT公表の最新の統合FDI政策と現地の弁護士の意見を確認されたい。
第1回で示した参入ルートのうち、最も支配力が高いのが自社資本によるインド法人と直営店です。「自分たちの資本だけで店を出せるのか」「何が必要か」——第5回はこの問いに答えます。
一言でまとめると:できる。同一ブランドの商品だけを売る単一ブランド小売(SBRT)は外資100%まで自動承認ルート(政府の個別承認不要)で認められている。条件は、①単一ブランドであること、②国際的に同じブランドで販売していること、③製造段階でブランドが付されていること、④ブランド所有者または所有者と契約した者であること、そして⑤外資51%超の場合は仕入額の30%をインドから調達すること(当初5年は平均、その後は毎年)。2019年の緩和で、インドから調達してグローバル事業に回した分も算入でき、実店舗より先にオンライン販売を始めることも可能になった(オンライン開始から2年以内に実店舗を開設)。一方、複数ブランドを扱うセレクトショップ型(複数ブランド小売)は外資51%まで・政府承認・最低投資額など厳しい条件があり、中小ブランドには事実上難しい。法人は非公開会社(Private Limited)が基本で、取締役2名以上・うち1名はインド居住者が必要。
✏️ 編集後記
「独自資本で出店できるか」という問いへの答えは「単一ブランドならできる」だが、その裏側にある30%現地調達条件の算定方法は、2019年の緩和の前後で解説の表現が異なり、二次資料の間でも説明に揺れがあった。本稿では、DPIITの統合FDI政策と2019年のプレスノートに沿って記載し、細部の判定は現地の専門家に確認するよう明記した。賃貸契約の条件は物件ごとの差が大きく、公的な標準値が存在しないため、項目の列挙にとどめている。
この記事の内容
① 先に答え——単一ブランドなら外資100%で出店できる
② 単一ブランド小売の条件と「30%現地調達」
③ 複数ブランド小売とECの扱い
④ 5つの出店形態を比べる
⑤ インド法人を作る
⑥ 店舗を開くための許認可
⑦ 物件と賃貸契約
⑧ オムニチャネル——実店舗とECをどう組み合わせるか
⑨ 段階的な出店ロードマップ
① 先に答え——単一ブランドなら外資100%で出店できる
— 条件を満たせば、政府の個別承認は不要 —
インドの小売への外資参入は、かつては厳しく制限されていましたが、単一ブランド小売については2018年から外資100%まで自動承認ルートとなりました。日本のブランドが自社ブランドの商品だけを売る店舗であれば、日本本社の100%出資でインド法人を作り、直営店を出すことができます。第1回で触れたユニクロのインド出店は、この枠組みによるものです。
② 単一ブランド小売の条件と「30%現地調達」
— ここを読み違えると後で困る —
| 条件 | 内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 単一ブランド | 販売する商品は単一のブランドであること | 複数の自社ブランドを持つ場合、ブランドごとに整理が必要 |
| 国際的な同一ブランド | インド以外の1か国以上で同じブランドで販売されていること | 日本で販売していれば満たす |
| 製造時のブランド付与 | 製造段階でブランドが付されていること | 仕入れた他社品に自社ブランドを付け直すことは不可 |
| 権利関係 | ブランド所有者、または所有者と法的に有効な契約を結んだ者 | ライセンシーが出資する場合は契約書の整備が必要 |
| 30%現地調達 | 外資が51%を超える場合、仕入額の30%をインドから調達(中小企業・農村工業・職人などからが望ましい) | 最初のFDIを受けた年の4月1日から5年間は平均で判定、その後は毎年。2019年の緩和で、インドから調達して海外事業に使った分(グループ会社経由・第三者経由を含む)も算入可 |
| オンライン販売 | 実店舗より先に自社ECで販売を始めてよい | オンライン開始から2年以内に実店舗を開設する必要あり |
30%現地調達は、外資51%以下の合弁であればかからない条件です。一方、100%子会社で出店する場合は、インドで生産パートナーを持つことが事実上の前提になります。第3回で紹介したように、インドで作った商品を日本や他国でも販売すれば、その調達額も算入できます。「インドで売る」と「インドで作る」をセットで設計するのが合理的です。
⚠ 最新の政策を確認する:最先端技術を用いた製品については現地調達条件の緩和措置がありますが、衣料品・生活雑貨は一般に対象外と考えておくべきです。また、外資規制は政府のプレスノートで随時改定されます。投資前に、DPIITの最新の統合FDI政策を必ず確認してください。
③ 複数ブランド小売とECの扱い
— セレクトショップ型・在庫型ECは外資にとって狭き門 —
| 形態 | 外資規制 | 日本ブランドへの影響 |
|---|---|---|
| 複数ブランド小売(セレクトショップ型) | 外資51%まで、政府承認ルート。最低投資額、投資の一定割合をバックエンドインフラへ、30%現地調達、出店都市の制限、州政府の同意などの条件 | 中小ブランドには事実上困難。複数の日本ブランドを集めた「日本セレクト」型の直営は、インド企業との提携(相手が運営)が現実的 |
| EC・マーケットプレイス型 | 外資100%自動承認 | Amazon.inやMyntraなどのプラットフォーム側の規制。出品者としての販売は可能 |
| EC・在庫型(自社で在庫を持ち多ブランドを販売) | B2Cでは外資不可 | 多ブランドの在庫型ECは不可。ただし単一ブランド小売の会社が自社ブランドを自社ECで売ることは可能 |
④ 5つの出店形態を比べる
— 「資本」と「運営」を誰が持つか —
| 形態 | 資本 | 運営 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| 直営店(100%子会社) | 自社 | 自社 | ブランド体験・価格・データを完全に管理 | 初期投資・人材・30%現地調達の負担 |
| 合弁(JV) | 共同 | 主に現地パートナー | 物件・人材・流通網を借りられる(無印良品の例) | 経営方針の不一致、出口の設計が必要 |
| フランチャイズ | 現地企業 | 現地企業 | 資本不要で多店舗展開が速い | 運営品質の管理、商標管理(第2回) |
| ショップ・イン・ショップ(百貨店・大型店のコーナー) | 小 | 自社または現地 | 集客力のある売場で小さく始められる | 売場の裁量が限られる、手数料 |
| ポップアップ・催事 | 小 | 自社または現地 | テスト販売・認知獲得に最適 | 継続的な売上にはなりにくい |
⑤ インド法人を作る
— 非公開会社(Private Limited)が基本 —
| 項目 | 要件・手続 |
|---|---|
| 会社形態 | 非公開会社(Private Limited Company)。有限責任事業組合(LLP)は、外資の受け入れに条件付きの業種では使えないため、単一ブランド小売では一般に非公開会社を選ぶ |
| 取締役 | 2名以上。うち1名以上はインド居住者(前会計年度にインドに182日以上滞在した者。会社法第149条第3項) |
| 株主 | 2名以上(日本本社と、もう1名の日本側株主など) |
| 設立手続 | 企業省(MCA)の電子申請(SPICe+)で、社名予約・定款・取締役識別番号・PAN(納税者番号)・TAN(源泉徴収番号)などを一括申請 |
| 外資報告 | 株式発行後30日以内に、インド準備銀行(RBI)へFC-GPRを提出(外国為替管理法上の報告) |
| その他 | 銀行口座開設、GST登録(第4回)、輸出入業者コード(IEC)の取得(輸入者となる場合) |
連絡事務所(Liaison Office)は情報収集・連絡業務に限られ、販売はできません。支店(Branch Office)も小売は認められていないため、店舗を運営するにはインド法人の設立が前提となります。
⑥ 店舗を開くための許認可
— 州・市ごとに異なる。地元の実務家の力を借りる —
| 許認可 | 概要 |
|---|---|
| 店舗・事業所法の登録 | 各州の店舗・事業所法(Shops and Establishments Act)に基づく登録。営業時間・休日・従業員の労働条件などを規定 |
| 営業許可(トレードライセンス) | 市町村当局が発行。業種・地域により要否と名称が異なる |
| GST登録 | 店舗のある州ごとに必要(第4回) |
| 消防の無異議証明(NOC) | 店舗の規模・建物の種類により必要。モール内の場合はモール側の手続と連動 |
| 看板・広告物の許可 | 屋外看板は自治体の許可が必要な場合が多い |
| 法定計量(輸入者登録) | 包装商品の輸入者としての登録(第4回) |
| 品目別の許認可 | 化粧品の輸入登録(CDSCO)、食品を扱う場合のFSSAI(インド食品安全基準局)許可、BIS認証対象品目の認証など |
⑦ 物件と賃貸契約
— モールか路面か。契約条件は日本と大きく違う —
インドの主要都市では、大型モールとハイストリート(路面の繁華街)が主な出店先です。モールは集客と安全性で優れる一方、賃料が高く、モール側の規則に従う必要があります。
賃貸契約では、一般に次のような条件が交渉の対象になります(一例であり、物件ごとに大きく異なります)。
- ロックイン期間——一定期間は解約できない条項
- 賃料の定期的な引上げ——数年ごとに一定率で上がる条項
- 売上歩合賃料——固定賃料と売上の一定割合の高い方、などの方式
- 敷金(セキュリティデポジット)と内装工事期間の賃料免除(フィットアウト期間)
- 契約の登録と印紙税——1年を超える賃貸借契約は登録法により登録が必要。印紙税は州により異なる
物件の情報は、表に出る前に人づてに動くことが多く、現地パートナーや不動産仲介業者とのつながりが重要です。
⑧ オムニチャネル——実店舗とECをどう組み合わせるか
— インドでは「ECで知って、店で確かめる」も「店で見て、ECで買う」も多い —
| チャネル | 特徴 | 日本ブランドの使い方 |
|---|---|---|
| Myntra・Ajio | ファッション特化の大手EC | 衣料品・服飾雑貨のテスト販売と認知獲得 |
| Amazon.in・Flipkart | 総合EC。地方都市まで届く | 生活雑貨・文具などの販売 |
| Nykaa | 美容・ファッション特化 | 化粧品・スキンケア(CDSCO登録後) |
| 自社EC | 単一ブランド小売の会社なら運営可能 | ブランド体験と顧客データの獲得。実店舗より先に開始でき、2年以内に実店舗を開設 |
| SNS・メッセージアプリ | Instagram・YouTube・WhatsApp による発見と接客 | インフルエンサー施策、来店後のフォロー |
決済はUPI(スマホ決済)が主流で、ECでは代金引換(COD)や返品への対応も必要です。商品画像・説明文を多言語で整え、チャネル間で統一しておくことが、ブランドの一貫性を保つ鍵になります。
⑨ 段階的な出店ロードマップ
— 最初から大型直営店を出さない —
| 段階 | 期間の目安 | やること |
|---|---|---|
| Phase 0:準備 | 〜6か月 | 商標出願(第2回)、価格設計(第4回)、パートナー探し(第3回)、HSコードと規制の確認 |
| Phase 1:テスト | 6〜18か月 | ディストリビューター経由でECに出品、ポップアップ・催事で反応を確認 |
| Phase 2:面を広げる | 1〜3年 | ショップ・イン・ショップ、フランチャイズまたは合弁で数店舗。インドでの調達・生産を開始 |
| Phase 3:支配力を取る | 3年〜 | 100%子会社を設立し、旗艦店と自社ECを運営。30%現地調達の体制を確立 |
出店チェックリスト
☐ 販売するのは単一ブランドか、複数ブランドか整理した
☐ 出資比率(100%・51%超・51%以下)と30%現地調達の要否を確認した
☐ インドの調達・生産パートナーの候補がいる
☐ 居住取締役の候補と、会社設立を任せる会計士・弁護士を決めた
☐ 出店する州・都市と、必要な許認可の一覧を作った
☐ モール・路面・百貨店コーナーのどれから始めるか決めた
☐ EC・SNSを含めたチャネル計画を立てた
最終回となる次回は、店舗の成否を決める人——2025年11月に施行された労働法典、採用、そして販売員教育を取り上げます。
Series — 全6回
「インドで日本ブランドを売る」実践ガイド 全6回
主要引用・参照元一覧
- インド商工省 産業国内取引促進局(DPIIT)Consolidated FDI Policy——単一ブランド小売(SBRT)、複数ブランド小売(MBRT)、電子商取引の各条項
- DPIIT Press Note No.1 (2018 Series)——単一ブランド小売の外資100%自動承認ルート化
- DPIIT Press Note No.4 (2019 Series)——単一ブランド小売の現地調達算定の緩和、実店舗に先立つオンライン販売の容認
- 外国為替管理(非負債性証券)規則(FEMA (Non-Debt Instruments) Rules, 2019)、インド準備銀行(RBI)FC-GPRの報告手続(FIRMSポータル)
- 会社法(The Companies Act, 2013)第149条第3項——居住取締役の要件
- インド企業省(MCA)SPICe+(会社設立の電子申請)
- 各州の店舗・事業所法(Shops and Establishments Act)
- 登録法(The Registration Act, 1908)第17条——1年を超える不動産賃貸借の登録
- 法定計量(包装商品)規則(2011年)、CDSCO Cosmetics Rules, 2020、BIS 品質管理令
- 株式会社ファーストリテイリング、株式会社良品計画 各社の公表資料
- 本シリーズ第1回〜第4回
※本稿は公開情報の要約・整理を目的とした実務ガイドであり、法務・税務・知的財産・労務・投資の助言を意図するものではありません。法令・規則・税率・補助制度は執筆時点(2026年10月)で確認できた各機関の公表資料および専門家の公表解説に基づきます。制度は頻繁に改定されますので、実際の出願・投資・出店・雇用にあたっては最新の一次情報をご確認のうえ、インドの弁護士・勅許会計士(CA)・商標代理人、JETRO・JIIPA等の支援機関にご相談ください。
インフォアイは2002年の創業から25年、インド・ジャイプールに自社拠点を置き、日印国際産業振興協会(JIIPA)の理事として日印のビジネス交流に関わってきました。市場調査、パートナー探し、多言語(英語・ヒンディー語)サイト構築、展示会・商談支援まで、インド進出の実務をご相談いただけます。
繊維商社にてインド生産を中心とした業務に12年間従事。現地工場との生産管理や品質管理、繊維ビジネスの実務経験を積む。その後、2002年にインドと日本を拠点とする株式会社インフォアイを設立(2026年で25年目)。創業当初は売上をつくるためにアパレルのOEM受注を手がけ、インドでの生産を続けてきた。前職を含めたインドでの繊維生産・生産管理の経験は34年。繊維業界向けのクラウドソリューション開発や画像加工サービス「キリコム」を中心に事業を展開。現在は繊維業向けクラウド「KIRIKOM PLUS」など、繊維業界の業務効率化とデジタル化を目的としたソリューションを日本・海外の企業に提供している。
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